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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(オ)277号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点Aについて。

本件当時の商法二八〇条ノ二は、会社の成立後株式を発行する場合においては、同条所定の事項であつて定款に定めのないものは、取締役会がこれを決すると定めている。すなわち、会社の定款において定めた会社の発行する株式の総数、授権資本の枠の範囲内においては、取締役会は、経済事情の状勢に応じて適宜新株を発行し、機動的に会社資本を調達することができる旨を定めたものと解するを相当とする。それ故、未発行株式がなお残つており、従来の資本額に相当する株式の全部が払込済となつていなくとも、更に会社が発行する株式総数の枠を拡大しておく必要があるといわなければならない。また本件当時の商法三四七条は、会社の発行する株式の総数は、発行済株式の総数の四倍を超えてこれを増加することを得ない旨を規定しているが、右は、会社の発行する株式の総数の限度を発行済株式の総数の四倍以下とすることを定めたものであり、従前からの会社が発行する株式の総数の枠一杯まで発行済となつた後でなければ、新たに会社の発行する株式の総数の枠を拡大することができない旨の制限を規定したものとは認められないことは、前記商法二八〇条ノ二の法意と対照しても、明らかである。されば、会社が発行する株式総数中に未発行部分がある場合でも、株式総数を増加する旨の定款変更は、それが発行済株式総数の四倍を超えないものである限り、なしうるものと解するを正当とし、これと同趣旨に出でた原判決は正当であつて、所論は採るを得ない。

同Bについて。

本件当時の商法三四七条は、会社の発行する株式の総数は、発行済株式の総数の四倍を超えて、これを増加することを得ない旨を定めているが、それは、会社の発行する株式の総数の増加が、発行済株式の総数の四倍を限度とするという趣旨であつて、右株式の総数増加についての株主総会の決議当時において発行済となつている株式の総数を基準とするものではなく、右株式の総数の増加の時において発行済となつている株式の総数を基準とするものと解するのを相当とする。また、株主総会の決議の効力の発生を条件または期限にかからしめることは、法律の規定、趣旨または条理に反しない限り、原則として許されると解すべきものであつて、株式の総数の増加を定める株主総会の決議の効力が、右総数増加の基準とされた発行済株式の総数が現実に発行済となつたときに発生するものとされた場合において、株主総会の決議の効力の発生を右のような条件にかからせることは、前記商法三四七条の規定、趣旨または条理に反する点は何ら認められない。

ところで、原判決の確定したところによれば、原判決にいう本件第四号議案(第一審判決にいう第三決議)の内容は、被上告人が発行する株式の総数の増加は、本件決議の日に直ちに効力を生ずるものではなく、被上告人のした再評価積立金の一部資本組入の効力発生および原判決にいう第三号議案(第一審判決にいう第二決議)による新株一、一〇〇万株の発行により、発行済株式の総数が一、六五〇万株となつた後、その四倍を超えない範囲内である六、〇〇〇万株に増加する効力を生ずる趣旨のものであることは明らかである。従つて、前記第四号議案により会社の発行する株式の総数が六、〇〇〇万株となるのは、前記第三号議案による新株一、一〇〇万株の発行により、発行済株式の総数が一、六五〇万株となつたときとせられているのであつて、この点には何ら所論の違法はなく、原判決の判示は正当である。所論は、右と異なる前記商法三四七条の解釈を前提として、原判決を攻撃するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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